金沢地方裁判所 事件番号不詳 判決
本籍並に住居
小松市北浅井町イ百八十一番地ノ一
無職
田端三郞
当二十三年
本籍並に住居
小松市符津町カ二十二番地甲
無職
野口外
当二十四年
本籍
神戸市須磨区大田町一丁目二番地ノ一
住居
小松市串町甲六十五番地
工員
市村利男
当二十三年
本籍
朝鮮京城府龍山区靑葉町一丁目三十四番地
住居
金沢市六斗林 貝範植方
朝鮮人生活権擁護委員会委員
梁成権
当二十八年
本籍並に住居
小松市丸内町二ノ九十四番地
無職
〓吉三男
当三十三年
本籍並に住居
小松市本折町百七十二番地
無職
佐藤洋
当三十六年
本籍並に住居
石川縣能美郡國府村字古府ヨ四十四番地
無職
山本外男
当二十五年
本籍
東京都千代田区麹町六丁目三ノ一番地
住居
金沢市別院通り二十五番地
弁護士
梨木作次郞
当四十二年
本籍並に住居
金沢市下中島町五十九番地ノ一
日本共産党石川縣委員会事務局事務員
改田喜與志
当二十五年
本籍
金沢市栄町十一番地ノ三
住居
同市長町二番丁二十七番地
日本共産党石川縣委員会委員
階戸義雄
当四十一年
右各被告人に対する住居侵入業務妨害被告事件について、当裁判所は、檢事中村正成関與の上審理を遂げ、次の通り判決する。
主文
被告人等を各懲役四月に処する。
但し各被告人に対し本裁判確定の日より二年間右各刑の執行を猶予する。
訴訟費用中証人浜本美喜雄、同木村淸中、同森中義雄、同今出正一、同釜谷昌夫、同宮田一夫の昭和二十三年七月二十七日出頭に関する分及び証人松井順孝の同月三十日出頭に関する分を除き、その余を被告人等の連帶負担とする。
理由
小松市八日市町地方五番地所在株式会社小松製作所は鉄道車輪其の他器械類の製造を業としているものであつて同会社從業員は昭和二十一年全日本機器労働組合石川支部小松製作所分会として労働組合を結成し、被告人〓吉三男、同佐藤洋、同田端三郞、同山本外男、同市村利男、同野口外は孰れも同会社從業員として同組合に加入し尚被告人〓吉三男はその執行委員長に、同佐藤洋はその書記長に各就任したことのあるものであるが、同会社は昭和二十二年六月頃より経営難に陷り、同年八月上旬同組合側の賃金値上要求、同会社側の從業員大量整理案をめぐつて爭議が勃発し、数回に亘る罷業を経て、同年十月中旬に至り石川縣地方労働委員会の調停により賃金を値上し、完全雇傭を要望事項とする等組合側の要求が認められて解決したが、其の後会社の経営は益々困難を加え、同年末頃会社首脳部は刷新されて新に就任した取締役社長河合良成專務取締役矢野信〓は金融復興金庫より多額の金融を受けて会社の再建をはかり、他方組合側も翌昭和二十三年に入つてより役員を改選し、從來加入していた全日本機器労働組合に脱退届を提出し小松製作所労働組合として会社との間に新な労働協約を締結するに至つたところ、同年三月二十九日会社側に突如会社再建対策として、從業員約三千七百名中約七百名の退職整理案を同労働組合に示し、新労働協約第九條に基づき組合側の承認を求めると同時に矢野專務取締役は新聞記者に対して今回の解雇は低能率者を標準として行う旨の声明を発表した。組合側は組合員の総意をとうため同年四月二日組合員大会を開き右会社案に付論議した結果約三百票の差の多数決をもつてこれを承認し更に最高議決機関である本部代議員大会において右の結果を確認すると共に、更に同日の経営協議会において会社側との間に退職金最低六ケ月分支給、被解雇者に対しては同月四日、五日の両日を休業として会社側より通知する等の事項を協定し右協定に基づき会社側は從業員中被告人〓吉三男、同佐藤洋、同田端三郞、同山本外男、同市村利男、同野口外及他六百七十名に対し解雇通知を発し、同年五月末日頃迄に退職金として各自の賃金六ケ月分に相当する金員を支拂つた。然るに右被解雇者等は、その中に日本共産党員、日本靑年共産同盟員、其の他昭和二十二年十月の爭議に活発に組合活動をした者が多数含まれていること、低能率者声明のため被解雇者の轉職が不当に困難にされたこと、前記組合大会の投票に際し会社側の利益誘導があつたこと等の事由を挙げ解雇措置を不当とし、昭和二十三年四月九日小松製作所労働組合退職者同盟を組織し、被告人〓吉三男は委員長となつて同月中旬石川縣地方労働委員会に対し会社側の前記解雇処分は労働組合法第十一條違反に該当する旨の提訴をすると共に会社側に対し低能率者声明の撤回、解雇の取消退職金として賃金三箇年分支給を要求し、会社側よりその團体交渉権を否認されるや石川縣下に於ける日本共産党、日本靑年共産同盟産別、國鉄、全逓、朝鮮人連盟、北陸貨物、労農救援会、電産、全日機器加人組合其の他の諸團体等所謂民主諸團体の支援の下に会社側に対する要求の貫徹をはかることになり一方被告人梨木作次郞は前示提訴に付退職者同盟の代理人として関係し、前記地方労働委員会に於ては右提訴事件の調査審議に当つたが、同年五月二十二日頃退職者同盟員である被告人山本外男、同市村利男、同田端三郞の三名が前記要求を掲げて会社責任者の回答を迫りこれを拒否せられ遂に同日より同会社本社事務所において所謂ハンガーストライキを決行するに至つたが同月二十五日同会社小松工場工場長中村文夫等の爲門外に放逐せられたところ右三名は同会社正門前附近に於て天幕を張り更にハンガーストライキを続けたので同月二十七日頃前示民主諸團体は右三名を坐視するに忍びずとなして日本共産党石川縣委員会責任者たる被告人任者たる被告人階戸義雄等が委員となり、民主團体共同調査團を組織し、共同調査をすること而して右三名のハンガーストライキを中止させることとし、会社側に対し会見の申入をしたがこれを承諾して呉れなかつたので、翌二十八日退職者同盟と共に共同闘爭委員会を構成し、被告人階戸等が参加して第一回委員会を開き会社側と闘爭することになり、同日更に会社側に対し六月一日午後一時に重役と面会すべき旨通知したが再び拒否され、同年六月一日午前中第二回の共同闘爭委員会を開いた上、被告人改田喜與志外一名が同会社に赴き重ねて会見の申入をしたが、之亦会社側より拒絶された。次で同日午後小松駅前廣場において、前記民主團体の代表者及び退職者同盟員よりなる共同闘爭大会を開き、被告人階戸義雄及び改田喜與志は日本共産党関係の代表者として、同梁成権は朝鮮人連盟の代表者として、被告人〓吉三男、同田端三郞同市村利男、同山本外男、同野口外は退職者同盟員として、被告人梨木作次郞は退職者同盟の顧問弁護士としていづれも右大会に参加し、予てより会社側に対し主張して來た(一)全員復職、(二)退職希望者に対する三箇年分の退職手当支給、(三)就職斡旋、(四)工場出入の自由、(五)低能率者声明の撤回を要求することを重ねて決議し、更に大会の余勢を駆つて会社正門までデモ行進を行い会社に対し面会の交渉を行うことになり同日午後二時二十分頃赤旗数本を先頭にして前記被告人等及び大会参加者より成る約七十名が大桑孝雄の指揮の下にスクラムを組み「ワツシヨワツシヨ」と掛声をかけて会社正門前に到り同門前で隊伍を解き、大桑孝雄、被告人階戸義雄、同改田喜與志、同梁成権、同〓吉三男外数名が同会社通用門(正門横)脇守衛場に於て、受附係守衛龜田栄に対し会社責任者えの面会を求めたが、会社側に於ては当時重役等が不在であつてかねて右会合関係者等がこの樣な挙動に出ることを察知し表正門、通用門、裏門等を閉鎖して同箇所其の他に約二十名の守衛を配置した上前示工場長中村文夫より右守衛等に対し共同闘爭大会参加者等が面会を求め來ても極力拒否し、入場させてはならない旨嚴命してあつた爲右龜田守衛等より其の旨解示して拒否されたのであるが、
第一、其の際大桑孝雄より「会社は会う意思がない、この上は各自の意思によつて行動せられたい」旨の発言があるや被告人田端三郞、同市村利男、同山本外男、同野口外、同階戸義雄、同改田喜與志等は強いて会社構内に侵入して会社側責任者に面会しようと決意し此処に右被告人等意思相通じ共謀の上尚他数名の者と共に先頭の二、三名はスクラムを組み、他の者は之に続き右守衞場内通路より前面に両手をあげて又は大声で制止する畠中直次郞外数名の守衞の制止を排除し強いて同会社構内に侵入し更に淸水精作外二名の警戒する同会社中門を被告人市村利男、同山本外男に於て実力をもつて押し開き同所を通過し、本社事務所玄関附近を警戒する守衞本谷俊彌知外一名の制止を斥けて同玄関より同事務所内に入り階段を昇り二階廊下を通つて專務室の入口に到つた処折柄同專務室で同会社経理課長和田他圭作と同会社の生産計劃につき打合事務に從事中の前記工場長中村文夫はその室内侵入を防ぐ爲同室の入口戸に内部より差込錠を施し、同会社秘書油谷幸雄が右戸の開かぬ樣に押さえていたのであるが、被告人市村利男に於てその戸の一枚を外部より無理に引き明け右のように、会社業務に從事中の工場長中村文夫が「何故入るのだ、入つてはならぬ」と大声で制止し、右和田課長も入口で両手をあげて制止するのを無視して同室内に乱入し、
第二、右侵入者中の一名は中村工場長が面会を拒絶したのに拘らず急遽正門附近に引きかえし、門前の民主團体の代表者等に対し「中村工場長が團体の代表者に会うから入つてくれ」と申し向け、大桑孝雄よりその旨を門外に傳えたので、被告人梨木作次郞、同〓吉三男、同梁成権及びその頃正門附近に到着していた前記退職者同盟の委員たる被告人佐藤洋外三、四名は之に應じて会社構内に入らうとし、守衞等より「上司の命があるまで待つてもらいたい」と制止され、守衞場及び正門内側附近で待機しているところへ更に被告人田端三郞が同所に赭き「中村工場長が團体の代表者に会うから入つてくれ」と告げて再び專務室に引返したので、被告人梨木作次郞、同〓吉三男、同梁成権、同佐藤洋等は他数名と共にその儘何等守衞の許可を受けることなく会社構内に入り、中門を経て前記本社事務所玄関に到つたところ、会社側の面会拒絶の意向を確かめて來た守衞〓良英に出会い、同人より「入つてはいかぬ」と制止されたのにかゝわらず、右被告人四名は中村工場長に面談を強要する意図の下に互に意思相通じて共謀し、右制止を無視し強いて同社事務所内に侵入して階上の前記專務室に到り、
第三、右のようにして專務室にて合流した被告人等十名は執務中の中村工場長に強いて面談する意図の下に意思相通じ共謀の上其の際押入つた他約十名と共に專務室を占拠し中村工場長を取卷き、被告人等の入室及び面談を拒否していた同工場長に対し会社側の執つた前掲解雇処分、低能率者声明に関する意見回答を要求し沈默を続けて速かに退去することを要求する態度に出ていた同工場長に対し更に一部の者から「こんなにだまつてゐるなら水を掛けろ」「今日は徹夜しても交渉する」「馬鹿野郞」等暴言を沿せて圧迫的態度を示し、その間約二時間に亘り前掲の返答を執拗に迫りもつて多数人の威力を示して中村工場長の前記生産計劃事務その他同社内における執務を妨げ、もつて業務妨害をなし
たものである。
(証拠)
右の事実中、
判示冐頭の事実は、
(一) 被告人〓吉三男の当公廷における判示冐頭より共同鬪爭大会において五項目の決議がなされたとの部分(但しハンガーストライキ中止の日の点及び組合が全日機器に脱退届を提出した点を除く)につき判示同旨の供述及びその他の被告人等の当公廷における各自関係部分につき判示同旨の供述、
(二) 証人永井泰藏の当公廷における、判示冐頭より会社が退職金として各自の賃金六ケ月分に相当する金員を支拂つた迄の部分につき判示同旨の供述、
(三) 証人浜本美喜雄、同木村淸中の当公廷における小松駅前廣場において共同鬪爭大会が開かれたこと、その決議内容、デモ行進の目的その状況、会社側より面会を拒否されたことにつき判示に照應する顛末の供述、
(四) 証人龜田栄の当公廷における会社側の上司の命につき判示同旨の供述、
(五) 証人中村文夫の当公廷における判示日時会社重役不在で守衞を配置して警戒させたことに付判示と同旨の供述、
(六) 証人古沢英雄の当公廷に於ける組合から全日機器組合に脱退届を提出したことに付判示に照應する供述、
を綜合してこれを認め、
その余の事実は、
(一) 被告人階戸義雄、同改田喜與志、同田端三郞、同市村利男、同山本外男、同野口外の当公廷における、同人等は十数名の他の者と共に会社責任者に面会の目的をもつて、会社正門より判示第一記載の経路を通り、本社事務所二階專務室に到り、同室において約二時間にわたり中村工場長と低能率者声明の件につき会談した旨の各供述、
(二) 被告人田端三郞の当公廷に於ける、私は專務室え行つてから判示第二のように更に梨木作次郞等を正門迄呼びに行つて直ぐ引返した旨の供述、
(三) 被告人梨木作次郞の当公廷における、私が正門前の天幕の中で休んでいると「民主團体代表者に会うから梨木さんも入つてくれ」と云はれたので、正門より少し中へ入ると守衞がちよつと待つてくれと云うので待つていたが何の返事もないので更に守衞に交渉していると誰かが來て「代表の人が会つているから來て呉れ」と云うので〓吉、佐藤外五、六名の者と共に中門を通り本社事務所玄関から屋内に入り專務室に行つた。其処において先に來て居た者と共に低能率のことについて中村工場長と会談した旨の供述、
(四) 被告人〓吉三男、同梁成権の当公廷における同人等は梨木作次郞と共に会社内部に入り中門を通り專務室に到つて同室に居た十五、六名の者と共に中村工場長と会見した旨の供述、
(五) 被告人佐藤洋の当公廷における、自分は判示六月一日の午後二時四十分頃小松製作所の正門に到り、其処で大会の経過をきいたところ大会はすんで今会社側と民主團体代表者とが交渉中であると云はれたので自分は退職同盟の委員でもありおくれて申訳けないと思い正門の守衞の所え行くとそこには梨木、〓吉が居たので一緖に中に入り、本社專務室に行き先に同室に居た十数名の者と共に、中村工場長と約一時間以上にわたり会見した旨の供述、
(六) 証人龜田栄の当公廷における判示第一記載の会社正門附近における侵入事実につき判示に符合する被害顛末の供述、
(七) 証人〓良英の当公廷における、判示第一記載の会社正門附近に於ける侵入事実につき判示に符合する被害顛末の供述並びに最初に十二、三名が入つて暫くしてから、右の内誰か一名が「工場長が團体の代表者と会うから入つてくれ」と正門の所へ連絡に來て、退職者や民主團体代表者の方に向つて云つたので、梨木、佐藤、〓吉外数名が受附の所へ來て入場を求めたが、受附の守衞は若し工場長が会うのならば守衞室の方へ連絡があるはずだからその連絡のある迄待つてくれと云つた、梨木は中村工場長が会うと云つていると云うがそれでは確かめて來いと云つた、私は工場長の樣子を確かめるため專務室へ行こうとしたが專務室前廊下には人がいつぱいいて中に入れないので、〓藤企劃部長に中村工場長は本当に会うと云つたかと訊ねたところ、そんなことはない絶対に入れてはいけないと云われたので早速守衞室へ帰ろうとして本社事務所の玄関迄出た時梨木、〓吉、佐藤外一、二名に会つたので同人等に入つてはいけないと申し、更に同所にいた警備員の南、本谷の二人に対し中村工場長は代表者に会わないのだから入れてはいけないと云つて急いで守衞室に帰つた旨の供述、
(八) 証人淸水精作の当公廷における、判示第一記載の中門附近の侵入事実につき判示に符合する被害顛末の供述並びに私はそのとき山本外男、市村利男、田端三郞外十数名の者が、中門より本社事務所の方へ走つて行つた後早速本社専務室へ行つたが廊下に一ぱいの人であつたので正門の方へ行こうとして帰ると途中正門守衞室と小松工場の事務所との中間位の所で後で名前を知つた梨木作次郞外数名の民主團体及び退職者の人々に会つたので、上司の指示があるまで待つてくれと制止し、入るのをやめさせたがその時誰か先に入つた一人が中村工場長が團体の代表者に会うから入つてくれと云つたので制止した手を下した所、この人達は中へ入つて行つた。然し自分もその附近にいた他の守衞達も中に入るのを許可したのではない旨の供述、
(九) 畠中直次郞に対する昭和二十二年六月八日付檢事聽取書中同人の供述として判示第一記載の正門附近における侵入事実につき判示に符合する被害顛末の記載、
(十) 本谷俊彌知に対する檢事聽取書中同人の供述として判示第一記載の本社事務所玄関附近における侵入事実につき判示に符する被害顛末の記載、
(十一) 油谷幸助に対する檢事聽取書(第一、二回)を通じ同人の供述として判示第一記載中專務室への侵入事実につき判示に符合する記載、
(十二) 証人和田他圭作の当公廷における判示第一記載の專務室における侵入事実につき判示に符合する被害顛末の供述、
(十三) 証人中村文夫の当公廷における判示第一、第二記載の專務室における侵入事実につき判示に符合する被害顛末の供述並びに判示日時自分が專務室で和田経理課長と生産計画について檢討している時に、最初に市村等十二、三名の者が侵入し、暫くして又梨木、〓吉、佐藤等六、七名の者が侵入し、全部の者が私の廻りに腰掛たり、机によりかゝつたりした。自分は面会する意思はないのでほとんど默つていた、会談中自分に対し「こんなに默つてゐるなら水をぶつかけろ」と、一、二回言つた者があり「今夜は徹夜しても交渉する」と云つた者もある、この樣なことを云つた時にも他の者が之を制止すると云うようなことはなかつた。その外「馬鹿野郞」と云うのも二回程聞いた。時間と共に薄らいだけれども始めは多数の者によつて圧迫を加えられる樣に感じた。又最初徹夜してでも交渉すると言われた時はこれは夜通し閉じこめられるのかと思つた。尚梨木等が專務室に入つて來てからも自分はしばしば面会はしないと云う意味の事を言つた。彼等が帰つたのは午後四時三十分頃と思われる旨の供述
を綜合して認める。
以上により判示事実は全部証明充分である。
(弁護人等及び被告人の主張に対する判断)
弁護人等及び被告人等は、第一、本件被告人等の行爲は労働組合法第一條第二項により違法性を阻却され無罪たるべきものである。(一)会社が從業員六百七十六名を解雇処分したのは無効であつて解雇通知を受けた者は依然として会社從業員たる身分を有し労働組合員たる身分を有しており團体交渉権を有しているものである。小松製作所労働組合退職者同盟はこのグループであつて即ち(イ)会社は労働協約に基き組合大会の承認を得て解雇したと謂うが組合側に於ては單に約七百名解雇の一應のわくを認めたのみで具体的に解雇を承認したものではなくその承認に付ても会社側の惡辣な利益誘導があり且退職者には最低六月分の退職金を支給すると約しながら全員一率に六月分のみの支給であつたので右承認はその要素に錯誤があつたものである。(ロ)会社の爲した右解雇処分は労働組合の組合員が正当な組合運動や爭議行爲をしたことを理由として爲されたもので、その全部又は一部の者との関係に於いて会社側は労働組合法第十一條、労働関係調整法第四十條等に違反するものである。(二)小松製作所の労働組合は全日本機器労働組合石川支部小松製作所分会として組織されているもので未だ正式に脱退していないから会社側の解雇処分如何に拘らず総て同労働組合員たる資格を有するものであり組合の多数決を以て脱退することは認めていないのである。(三)会社從業員中労働組合の組合員たる身分を喪失している者がありとするもこれに因つて勤労者たることに変動を生ずるものでない。從つて労働者としての團結権、團体交渉権を有しているのであつてこのことは憲法第二十八條の保障するところである。本件被告人等の所爲は労働爭議に関し被解雇者の地位の惡化を防ぎ利益擁護の爲被解雇者又はこれに対する協力者代理人が会社側責任者と交渉する必要上爲された團体交渉権の正当な行使であつて仮令多少の無理が存するとしても労働組合法第一條第二項の規定により違法性を阻却されるものである。第二、加之会社側の爲した不当解雇処分及び被解雇者に関する所謂低能率者声明により被解雇者等は窮地に陷いれられ就職、婚姻其の他公私生活上甚大の損害を蒙り急速に之が権利侵害の排除を爲さねばならぬ立場にあつたものであり会社側は右解雇後の処理に付信義誠実の原則に基いて行動せず民事法上の義務を懈怠していたものである。会社從業員として又被解雇者としてこれが対策に関し会社構内に立入りその工場長に面談する必要があつたものである。その際中村工場長は会社留守担当者として之に應ずべき職責を有していたものでこれも同工場長の業務の一部であるから、会社側がこれを拒否することは信義誠実の原則に反し権利の濫用である。被告人等の本件所爲は眞に已むことを得ざりし自救行爲であつて刑法上の所謂正当行爲、正当防衞又は緊急避離行爲に該当し刑法第三十五條第三十六條第一項第三十七條第一項本文の規定によつても違法性を阻却せられ無罪たるべきものである」旨主張するので先ず右第一の点に付檢討するに労働者の團結権、團体交渉その他の團体行動をする権利は固より憲法の保障するところであるがこれが行使に当つては憲法其の他の法令の規定に從うべきものであることは多言を要しないところであつて労働者の行爲が労働組合法第一條第二項の規定により正当化せられ違法性を阻却されるが爲には(一)労働組合の團体交渉其の他の行爲であること、(二)同條第一項の目的即ち團結権の保障及び團体交渉権の保護助成に依り労働者の地位の向上を図り経済の興隆に寄與する目的を達成する爲に爲された行爲であること(目的の正当性)、(三)その行爲が右目的を達成する手段として正当なものであること(手段の正当性)の三要件の具備した場合でなければならないものであり、右(三)の手段の正当性に付てはその團体交渉其の他の爭議行爲が眞に当該労働者に取り必要已むを得ないもので且自己等の利益と対使用者及び社会的影響を比較考量し相手方及び社会に対し最も損害の少いものでなければならないと解するを相当とする。今本件に関し右(三)の要件に付てこれを観るに証人森直弘、同松井順孝の供述、被告人〓吉三男の当公廷の供述に徴すれば前示解雇処分に関する労働組合法第十一條違反の提訴事件に付ては被告人〓吉三男がその退職者同盟の代表者、同梨木作次郞がその代理人となり退職者同盟関係の被告人等に於て深き関心を以て強硬に主張し全力を傾注してこれが目的貰徹に努め石川縣地方労働委員会に於ても既に周到綿密な調査を進め早晩その終局処理を見る段階になつていたことが明かであり又証人矢野信〓、同中村文夫、同龜田栄の供述によれば右退職者同盟側から会社側に対し屡次に亘る全員復職其の他の事項に付強硬な要求が爲されたのに対し会社側では直接交渉の方法によつては到底これを認容せざる態度を固持し且右要求及び民主團体側の面談申入に付ては会社取締役等所謂重役の管掌事項とし当時重役不在の爲他の者が面談するも到底その要求等を満足させることができない情況に在つた爲終始拒否して來たものであつて被告人等が判示日時会社守衞場に到り面談申入をした際にも同会社の警備及び守衞等の言動により執務中の中村工場長等が被告人等の面談申入に應ずる意思の無いことは被告人等に於て容易に領解し得たものであると謂うことが看取される。このような情況の下に於て被告人等が判示の如く会社内に侵入し多数人の威力を用いて中村工場長の業務を妨害したことは前示(三)の要件たるその手段の点に於て前説示合法の限界を逸脱しているものと解すべく到底正当なものと謂うことができない。次に前記第二の主張に付案ずるに被告人等の本件行爲が團体交渉権の行使として正当なものであるから刑法第三十五條により達法性を阻却されると云う主張の採用に値しないことは前説明により明かであり、又本件行爲は急迫不正の侵害に対し権利防衞の爲已むことを得ざるにでたもの或は自己又は他人の生命身体自由財産に対する現在の危難を避くる爲已むことを得ざるにでたものとも認め難いから正当防衞及び緊急避難行爲であると云う主張も到底認容することができない。
尚弁護人岡林辰雄は小松製作所労働組合退職者同盟は團体交渉権を有する労働組合であり、退職者同盟員又は之が協力者たる被告人等の本件所爲は労働爭議中の会社側に対する正当な團体交渉行爲である。檢事の本件起訴は右團体交渉権の蹂躙を目的とし起訴権の濫用である、即ち憲法第二十八條に違反する起訴として無効であり刑事訴訟法第三百六十四條第六号に該当するから本件公訴は棄却さるべきである旨主張するけれども本件起訴は憲法第二十八條に違反する無効のものとは認め難いから弁護人の右主張は採用することができない。
(法律適用)
法律によると被告人等の判示所爲中建造物侵入の点は刑法第百三十條第六十條に、威力業務妨害の点は同法第二百三十四條、第二百三十三條、第六十條に各該当するが、右はそれぞれ手段結果の関係にあるので、同法第五十四條第一項後段第十條により犯情の重い威力業務妨害の罪の刑に從い、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人等を各懲役四月に処し、尚本件犯行の動機、会社側の態度措置その他諸般の情状に鑑みるときは各被告人に対しその刑の執行を猶予するのを相当とするので同法第二十五條により孰れも本裁判確定の日より二年間右刑の執行を猶予することとし訴訟費用については刑事訴訟法第二百三十七條第一項第二百三十八條を適用してその負担を定めることとする。
仍て主文の通り判決する次第である。
(裁判長判事 山田義盛 判事 米光哲 判事補 植村秀三)